秋の風を感じながら、今回は中央区晴海と江東区豊洲を結ぶ「春海橋公園遊歩道」を訪ねました。昭和の物流を支えた鉄橋が、令和の東京で人々の散歩道として生まれ変わったのです。

第五回 旧晴海鉄道橋 廃線跡に甦る水辺の記憶
この橋は1957年(昭和32)年に完成した「旧晴海鉄道橋」。かつては東京都港湾局専用線「晴海線」の一部として、貨物列車が行き交っていました。戦後の復興と高度経済成長を支えた物流の動脈として、32年間にわたり港湾と都心を結び、東京の発展を静かに見守ってきた存在です。
1989年(平成元)年に鉄道路線が廃止されてからは、長らくその姿を水面に映すだけの“記憶の橋”となっていました。しかし、時を経て再び人々の暮らしの中へと戻ってきました。遊歩道化の工事では、当時の鉄道レールを歩道部に再配置し、橋中央のガラス床からその軌跡を覗くことができます。アーチ部の塗装も建設当時の色彩に復元され、往時の面影が美しく甦りました。

夕刻には、橋全体がライトアップされ、運河に映る光が揺らめきます。昭和の鉄骨と令和の光が交錯するこの風景は、かつての産業都市・東京が“水辺のまち”として再び息づく姿そのものです。

晴海と豊洲を結ぶこの遊歩道は、単なる通り道ではなく、過去と現在を静かに結ぶ架け橋です。古い鉄橋が語りかけるのは、「街の記憶は、消えずに形を変えて生き続ける」ということ。秋の夕暮れ、ぜひ一度、歩いて確かめてみてください。取材・大島 克之

