今回はいつもとはちょっと趣向を変えて、私が実際に体験した神の存在をご紹介します。かれこれ三十年愛用している沖縄のヤチムン。この度、親しくしている親方にお声掛けいただき、その登り窯の火入れに参加してきました。私がお邪魔した沖縄県の中部、読谷村座喜味に工房を構える北窯は、沖縄の伝統的な流れを汲むものづくりを行う4名の親方たち(宮城正享さん、松田米司さん、松田共司さん、與那原正守さん)が所有する共同窯で、そのぼってりとした素朴な器が全国でも大人気の窯元です。器を作るためには、土づくりからの丁寧な工程を得て焼き上がるまでほぼ三ヶ月かかり、ヤチムンは、沖縄の風土に育まれそこに存在する全ての神を召喚してできたたまさに自然の贈り物。北窯の登り窯は、四つの窯元の親方やお弟子さん全員参加での儀式の後、点火され、種火(硬い松の木だけを使用)をじっくり20時間かけて育て、そこから熱風が登ってゆく流れに合わせ三日三晩交代で焚き続けます。職人さんたちは、常に火や風の音を聞き、窯の中の器たちと会話を続け、炎をサポートするかのように薪を焚べ、温度を調整しながら焼き上げます。
全てが商品になるわけではないこの厳しい作業を、三十年以上続けてきた親方たち。弟子時代も含めると相当な年月を、この土地でただ淡々と繰り返してきたその偉大さを再認識し、シンプルに【好き】が原動力になるものづくりの素晴らしさに感動しました。今は器も安価でいろんなものが手に入りますが、その個々が持つエネルギーには絶対的な違いがあります。いち消費者として、値段ではなく好きの感覚を大切にし、自分の手で気持ち良い日常づくりをしてゆきたいですね。文・河越 梨江
北窯
■交通
沖縄県読谷村座喜味二六五三の一 やちむんの里内
沖縄那覇バスターミナルより那覇名護線二〇番バス1時間
親志より徒歩一〇分