いま、幸せかい?〜可能性のひきだし〜第三回

前回に引き続き、あるご愛読者さまとの想い出について触れてまいります。

〈生まれてきてよかったなぁ〉②

用もないのに、突然ご愛読者さまの家を訪問した私は挙動不審だったでしょうし、自分でもそう思いました。
ところが「外、寒いでしょう…珈琲飲んでいきなさい」何も聞かずにそう言って、どこか懐かしく、温もりのある部屋に入れてくれました。

ご愛読者さまとの間にやさしい沈黙が流れ、温かい珈琲に包まれ…堰を切ったように涙が溢れました。一緒に珈琲を飲んでいたご愛読者さまは、何も言いませんでした。

落ち着きを取戻し我に返ると、恥ずかしさで顔から火が出そうでした。急いで珈琲を飲み干し、お詫びとお礼を伝え帰ろうとすると、ご愛読者さまは外まで見送ってくださり、最後まで私を無言で励ましてくれました。

どんなに月日が流れてもこの出来事は色褪せることなく、むしろ当時を書き綴ることで、より「ああ、あの時私は幸せだったんだなぁ」と懐かしく想います。

いま、この時代に同じことをするのはとても難しいでしょうし、もしもあの時、ご愛読者さまがお留守だったら…別の行動をとっていたら……思い返すほど、色んな可能性があったと気づかされます。

それにしても『男はつらいよ』の満男から、もし「人間は何のために生きてんのかな」と聞かれたら、何と応えましょう…。次回へつづきます。